女子ベンチプレス50歳代の部「マスターズ2」で110キロの世界記録を持つ富山県高岡市昭和町の会社員増山朱美さん(50)が、今春の世界大会にむけ市内のジムで練習に励んでいる。
股関節の病気で大好きな運動にドクターストップがかかり、絶望の淵(ふち)で出会った競技がベンチプレスだった。決して諦めない強靱(きょうじん)な精神力を武器に「自己ベストを更新したい」と自らの限界に挑戦する。
身長約1メートル60。一見きゃしゃにみえる体つきで白シャツにスカートを着こなし、にこやかに応対する。勤務する射水市の温泉施設「健宝の湯」での様子からは、ベンチプレスの国内第一人者と気付く人はまずいないだろう。
昨年9月、カザフスタンで開かれたアジアベンチプレス選手権一般・女子52キロ級で優勝を飾り、マスターズ2の世界記録を20キロ以上塗り替え
た。今年4月開催の世界マスターズ選手権大会で世界一を目指している。仕事と家事を両立するため、トレーニングは勤務後の午後6時頃から約3時間だけ集中
して取り組む。
幼い頃から水泳やバレーボールが大好きで、ジムでは趣味のエアロビクスに連日励んでいたが33歳のとき、朝目覚めると、
股関節に自力で歩けないほ
どの激痛を覚えた。変形性股関節症と診断され、医師は「もう運動はできない」と宣告。「この先どうしたらいいの」。目の前が真っ暗になった。
それでも運動への思いは抑えられず、ジムへ足が向いた。すると、普段は素通りしていたベンチが目に入った。「これならできるかも」と見よう見まねのフォームで挑戦。これが競技との出会いとなった。
ベンチにあおむけに寝転がり、両端に重りが付いたバーベルを両手で持ち上げる。日を重ねるうち自然と筋肉がつき、試しにと初めて出場した県大会で
いきなり優勝を飾った。うれしさと同時に「記録保持者になる」という明確な目標が生まれ、いっそうトレーニングに没頭するようになった。
記録が伸び悩み、「もう無理」と涙を流しながらトレーナーと一緒にバーベルを上げたこともある。大会では「持ち上がらない」恐怖心を克服するため、成功して笑う自分の姿をいつも思い浮かべる。
最近、勤務先で入浴客から「おめでとう」「がんばってね」と声をかけられる機会が増えた。「競技人口も少ないスポーツ。年を重ねてもつきあえるし、世界で活躍して、少しでも普及に貢献できたらうれしい」